なぜ日本人は「五月病」になるのか

五月病という言葉がある。毎年5月、ゴールデンウィーク明けくらいからだろうか。ニュースなどのメディアでも話題として取り上げられている。メディアから得られる情報から察するにメンタルに関する症状が発現する病なんだろう。私の認識はこれくらいのものである。

五月病になったことがあるか?という問いに対して「はい」と回答できる人は、その病や発生機序について明確に説明できるのだろうか。おそらくみんなそこまで深く考えず回答するだろう。かく言う私も、五月病がどんなものか深く考えたことなどない。そんなものがあるんだな、くらいの位置づけである。ただ幸いなことに、自身が五月病について考えたことがないのは「これは五月病かもしれない」と思う状況になったことがないからだろう。仮にそうなっていれば手元のスマートフォンですぐに検索し、五月病とは何たるやを知ろうとすることは、自分の性格上容易に想像がつく。

さて、前置きはこれくらいにして五月病の定義について考えてみたい。

目次

五月病の正体

本稿執筆時点で「五月病 定義」でググると最初にヒットするのが大阪府医師会の「五月病|げんき情報」という記事だ。内容を読むとまず「五月病は、正式な医学用語ではありません」とある。五月病には明確な定義があるわけではないのだと解釈できる。さらっと読んだもののその病について簡潔に説明されている箇所がなかったので(分かりやすく解説することが優先されていると推測されるため)、こちらで勝手にポイントを記載したい。

まず五月病という名のとおり、5月頃…特にゴールデンウィーク明けに発生するものだということ、症状としては無気力や不眠、食欲不振など多岐にわたることがその特徴として挙げられる。要するに、ゴールデンウィークが4月に新年度が始まって以来初めての大型連休であり、それまで緊張状態にあったのが「長めの休み」を通じて一気に緩和され、その反動が心身の疲れとして現れてくるということなのだろう。もっと言うと元の緊張状態に戻せなくなってしまった。戻そうとすると強いストレスがかかり、心身の不調として出てくるということなのだろうと想像する。

継続的な緊張状態から解放されたときに心身の不調が生じることは、5月に限らず誰にでも起こり得ることである。ただし、日本では4月1日から新年度が始まり、入学や入社、部署異動など環境の変化に暴露する人が多く、しばしばその変化のストレス値が高く、それゆえ多くの人が5月の連休明けに心身不調に陥るということだろう。

ここまで書いてきて、結局「五月病とは?」に対する簡潔な答えを見いだせていない。無理に医学的な病に紐づけるなら何なのかという観点で調べていくと「適応障害」と「うつ病」がヒットした。先に紹介した大阪府医師会の記事にも「適応障害」という言葉があった。では「適応障害」とは何なのだろうか。

調べてみると世界保健機構(WHO)の診断ガイドラインなるものがあるらしく、それによれば適応障害は「ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態」(引用元)と定義されているそうだ。また、追加的に調べていくとストレス因が生じてから1か月以内に症状が現れ、6か月を超えてその症状が継続することは稀であることも分かった。私の初期的なリサーチによる大雑把な理解にもとづくと、適応障害の症状が進行するとうつ病になり得るということらしい。

4月に新生活が始まり、ゴールデンウィーク明けに症状が出る。環境の変化がストレスにつながり、それがトリガーとなって発生する症状。諸説あると思われるが、うつ病の前駆症状としても観察される。これらの情報から、少々乱暴かもしれないが、五月病=適応障害と考えても良いように思う。実際にはもっと複雑な話かもしれないが、五月病が適応障害なのかうつ病か、あるいは両方なのかといった議論はその手の専門家に譲りたい。話を前に進めるために、ここでは五月病=適応障害として考えてみたいと思う。

五月病は冬に多い?

五月病という名称がわざわざついているからには、適応障害の発生時期は当然に5月に多いものと私は考えた。で、調べてみた。百聞は一見にしかずということで次のグラフを見ていただきたい。

JAST Lab「適応障害の患者動向について」より転用

個人的に衝撃的だったのだが、適応障害の発生が5月に有意に観察されるわけではないのだ。統計上の母数の問題で、実は母数に含まれない隠れ適応障害…あるいは予備軍が存在するのかもしれないが、参照したデータからは「適応障害といえば5月」という結果は得られなかった。それどころか、5月の患者数は他月に比べて少ない。もしかするとゴールデンウィーク明けに適応障害を発症し、少し様子見をした上で6月以降に来院するということなのかもしれないが、推測の域を出ない。仮にそうだとしても、冬季の患者数には及ばないのだ。「五月病は冬に多い?」と見出しを打った理由がお分かりいただけただろう。

ちなみに、季節性感情障害という言葉があり「冬季うつ病」とも呼ばれるようだ。厳密には冬季うつ病と適応障害は区別されるべき存在らしいが、冬季に適応障害患者数が多くなっていることを考えるとまったく無関係とも言えないように思う。

なぜ日本人は「五月病」になるのか

ここまでの内容を踏まえ、五月病の定義について今一度整理したい。五月病=適応障害という等式はいささか乱暴だということは読者も感じていることだろう。5月に発症する適応障害を五月病と呼び、冬季に発症する適応障害を(軽度の?)季節性感情障害くらいに認識しておくほうが腹落ちするかもしれない。

なぜ日本人は「五月病」になるのかを考えるにあたっては、なぜ日本人が5月に適応障害になりやすいのかと読み替えるのが良いだろう。結局5月に適応障害が多いというデータは即席リサーチでは得られなかったが、それは一旦横に置いておいて、日本人が5月に適応障害になりやすい理由について考えてみたい。冒頭記載したとおりではあるが、日本は4月1日を年度の起点としており、その4月頭から緊張状態が続く人が多く、それがふと途切れるのが新年度開始から起算して初めての大型連休「ゴールデンウィーク」である。ご存知のとおり、ゴールデンウィークは日本の祝日が集中しているためにできた連続休暇(不連続な年もあるが)であり、海外拠点の人間にゴールデンウィークなんて言っても伝わらない。要するに日本にしかない概念だ。話が逸れたが、4月1日から新年度が始まることと、5月頭に大型連休が存在することの2要素が、五月病の発生に大きく寄与していると考えられる。

異論は認めるし暴論であることには違いないのだが、ゴールデンウィークがなければ五月病の発生率は減るのではないだろうか。少なくとも”5月に”適応障害になる人は減ると思うのだ。年間トータルで言えば患者数は一緒かもしれないが、仮に五月病を減らすことだけを目的とするならばゴールデンウィークをなくせば良い。n=1のサンプルでしかないが、私自身ゴールデンウィーク中フルで休んでいることが社会人になって以降ほぼなく、それゆえに五月病になったことがないのではないかと推測できるのだ。ゴールデンウィーク中仕事をしていれば、4月1日から環境が変わろうが連休によって緊張の糸が切れることはない。

念のために申し上げておくが、ゴールデンウィークが不要だと言いたいのではない。遅かれ早かれ出てくる心身疲労のアラートが新生活開始から1か月で検知できることは、それはそれで有用だと思うからだ。緊張状態が長く続いたあとにそれが途切れた時の方が症状は強く出るだろうし、適応障害どころかうつ病にまで発展する可能性だってある。クリティカルな心身症状が出る前にアラートを出すことにゴールデンウィークが貢献しているとするならば、良い仕事をしていると言える。結論として5月の大型連休は、日本人にとっておそらく必要なのだ。

さいごに、私の思いを書いてこの記事の締めくくりとしたい。
五月病になるくらいちゃんとゴールデンウィークを休みたい。切実に。

おわり

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次